10年前のイラストログ リョウ×キング編9

男の約束

キングの弟のジャンが、大学の入学試験にパスしたとユリから聞かされたのは夏の話だった。そうか、お祝いをしないとなとその場では答えたが、取り紛れているうちにすっかり季節が変わってしまった。季節どころか、年まで変わっていることに気がつき、さすがのリョウもこれはまずいとユリから渡されたアドレスに電話を入れた。
 なんでも、ロンドンからかなり離れた大学らしく、今は寄宿舎暮らしだと言う。いつロンドンに帰ってくるんだ、と尋ねたら、今度のイースター休暇には姉の顔を見に戻るという。それじゃあそのときに、と答えて電話を切った。

 ロンドン、ハイドパーク。
「久しぶり」
 笑顔で手を差し出してくるジャンは、最後に会ったときより随分大人びた雰囲気をまとっていた。握手を交わした手も心なしか厚みが増し、ひょろひょろしていた体つきもがっしりとしたようだ。ジャンはまだ10代なのだ。青年の成長は青竹のごとく鮮やかで、まぶしい。
「元気そうじゃないか」
「おかげさまで」
 メガネの奥の青い瞳が笑み崩れる。
「だいぶ遅くなったが、お祝いだ」
 リョウはバッグの中から包装紙に包まれた箱を出し、ジャンに手渡す。
「ありがとう。何だろう? 開けてもいい?」
「ああ。たいしたものじゃないけどな」
 カサコソと箱を開けると、シンプルな作りの万年筆が収められている。
「すごい、ありがとう」
 と、リョウを見上げて笑った顔は、幼い頃の彼のそれと変わらなかった。

「寄宿舎暮らしじゃ、キングも寂しいだろう」
「まさか、子どもじゃないんだし」
 大学生活のよしなしごとをベンチに座ってぽつぽつと喋るふたりの目の前を、小さな子どもたちが争うようにして駆けて行く。
「もう姉さんは、僕から自由になるべきなんだ」
 決然とした口調でジャンが云う。リョウは少し驚いて傍らの青年を見やった。ジャンは前を見たまま、言葉を続けた。
「もう10年以上、姉さんはずっと僕の面倒を見てきてくれた。最近、それはすごく大変なことだったんだ、って、やっと本当の意味で理解できたように思う」
「だが、それはキングが望んでやったことだ。ジャンが必要以上に重たく受け止めることはない」
「うん」
 ジャンは頷く。
「でもさ、年頃の女の子が男の人の格好をしてまでお金を稼いでたなんて、本当に大変だったと思うんだ。そのあともずっと姉さんは僕のことを第一に考えてきてくれた。今、僕、奨学金を貰って、アルバイトもしてるんだ。やっと経済的に自立できた。だから、姉さんには自分のことをいちばんに考えてもらいたいし、幸せになってもらいたい」
「それを聞いたら、キングのやつ泣いて喜ぶだろうな」
 ジャンがリョウに向き直る。
「……リョウ」
「なんだ?」
「姉さんのこと、よろしく」
「え?」

 

「姉さんが気を許してる人って少ないんだ。リョウなら、姉さんのこと安心して頼めるから」
「ああ、任せとけ」
 リョウは笑った。その笑顔には何の裏表もない。ジャンに云われたことを、云われた言葉どおりに受け止めました、と云う顔だ。何でこの人はこんなに鈍いんだよ、とジャンは内心で苦笑する。これでは姉が苦労するのもわかるというものだ。
「約束してよ、リョウ」
「約束するさ」
「わかってんのかなあ」
「わかってるとも。ジャンがいない間、ちょくちょくキングの様子を見に行けってことだろ?」
「全然違うよ!」
 無敵の龍、は、目をぱちくりとさせている。
 その彼の目の前で、件の麗人にそっくりな顔をした青年が、厳かな調子で口火を切った。

「つまりね、僕と約束して欲しいんだ。あのさ──」

 

あ と が き
リョウさんホントに天然だからこのままじゃいつまで経ってもキングさんとくっ付かないんじゃないかとおばちゃんいい加減心配になって、
どうしたらいいかなあと考えてたらこんなネタが降って来ましたという小咄。
リョウ29~30、ジャン18~19くらいな感じで。
イギリスは国立大学の学費がとても安く、奨学金も学費以上に支給してくれて、しかも受けやすいんだそうです。なので、ジャン君は奨学金+アルバイトで生活まかなってます、と言う感じで。ジャンだってお姉ちゃんから一刻も早く独立して、苦労を軽減してあげたいって思ってるに決まってるんで。
ジャンをメガネ君にしたのに深い意味はありませんが、なんかこの子お利口さんになりそうなイメージだったので、頭良さげな感じにするためにこんな風にしました。
イースター休暇のイギリスはこんなに公園の緑は青々としてないと思うんだ……。その辺はまあ、目をつぶってやってください。
このあとジャンはリョウに何を言うんでしょうかね~えへえへ。リョウはそれにどう答えるんでしょうか。それはまたやる気が起きたら描こうかなと思います。
(2010,3rewrite)


■10年後のつぶやき
この小話を少しいじって「His word is his bond.」という小説を書きました。イラストがちょっとアレな感じですがまあいいかと掲載してしまいます。