血とみささぎ

幼い頃は、海を渡ったところにもサントハイムの領土があることを何の不思議にも思わなかった。しかし、よくよく考えればそれは奇異なことだった。
二尾の獅子、そして百合を描いた王家の紋章の装飾がありとあらゆる箇所に施された堂々たる帆船は、それ自体がサントハイム王国の威容を表しているかのようだ。舳先には魔物を祓う海の精霊の彫刻が海原を睥睨し、船体はサントハイムの王城が縞目の大理石で築かれているのに合わせ、あいまいな象牙色で塗装され、「白銀の大鷲フレスベルグ」と言う名前にふさわしい優雅さを保っていた。
白銀の大鷲号と、もう一隻の大小の帆船は、サントハイム大陸を離れ南下し、エンドール大陸の末端にある彼らの国の飛び地に向かっていた。
サントハイム立国の王が250年ほど前に彼の地で客死して以来、険しい山に隔てられた岬の突端はサントハイム国領として、当時その地を治めていた者たちから譲られた。と、「サントハイム列王記」にはある。割譲されたのか、献上させたのか、ほとんど掠取に近いことをしたのか、実際のところは後世のものは誰も知らぬ。しかし、250年前から、そこはサントハイムの地である。その事実は変わらぬ。
ただ、僻地と言って差し支えないような土地柄であったから、そこは必然、街にはならず、建国の王とその血に連なる者らの墓所みささぎとなった。彼の地が「王家の墓」と呼ばれるのは、そういうわけである。
サントハイム城の人々が失踪していた頃には魔物の手に堕ち荒れてしまったが、世に平穏が戻ってからは修復が進められ、再び貴人たちの魂を慰める美しい墓所に戻った。昨今は墓守の任を命ぜられたものが一年交代で住まうのみであるが、年に数度、儀式のために王族が来訪する。
アリーナも、幼い頃から何度もそこを訪れた。船に乗る時、姫はいつも父と違う船に乗らねばならなかった。二人が同じ船に乗り合わせ、ともに海の藻屑となることは許されなかったゆえ。まだいとけない姫御前には、その船旅はさみしく、とてつもなくつまらないものであったため、姫は乳母のライラにやつあたりをし、彼女をよく困らせた。アリーナはしばしば船の中で、ライラにせがんだ。「クリフトを連れて来て!」と。
そのたびにライラは、息子のそれと同じ菫青石アイオライトのような瞳に深い愛情をたたえ、辛抱強く姫を宥めたものだ。
だが今、アリーナの傍らに控えるのは乳母ではない。彼女の身を守る武官が数名と身の回りを世話する女官が数名、そして船上で忙しく立ち働く船乗りたちが彼女の船には同乗していた。彼女はすでに、成人を迎え、立太子を済ませた身であったからだ。
王家の祖霊をなぐさめ、竜の神マスタードラゴンに恩寵を請う祀りのために、アリーナは幼い頃と同じように父とは別の船に乗り、王家の墓に向かっていた。アリーナの乗っている船からは、父が白銀の大鷲号の甲板でブライ老と談笑している姿が見えた。そばには王宮教会の神官たちの姿もある。父王の、自分と同じ赤銅色の巻毛が、陽光に透かされてより明るい緋色に輝いていた。
やがて船乗りたちが声を掛け合いながら針路を変えると、アリーナの眼前に鋸の歯のような尾根を備えた山塊と、それを背景にした岬の突端が現れた。白い大理石の祠が遠目に視認される。王家の墓だった。
アリーナの装いは墓参と云う目的にふさわしく、黒い絹で仕立てられた華美に過ぎないドレスであった。襟や袖口、前立てや裾にそっけないフリルがあしらわれただけの簡素な意匠であったが、それらは娘ざかりを迎えた姫の美しさをかえって際立たせた。そのドレスの上に、冬の海風から身を守る黒く染められた羊毛の外套マントを羽織っている。
あと数回夜を越えれば、本格的な冬は去っていこうと云う季節だった。だが空は真冬のようにすっきりと晴れ渡っており、そして彼らの体を撫でていく海風も未だ冷たく、時に切り裂かれるような強さでもって彼らの身をすくませた。
父王が乗る白銀の大鷲号と、麾下の船はゆっくりと着岸した。王を迎えるための港は、このような最果ての岬にあっても整えられ、気品を保っていた。
「殿下、上陸の用意が整いました」
儀典用の、華美だが実用性の無い鎧に身を包んだ髭の武官が云う。アリーナの武道の稽古の相手になってくれる、気心の知れた王宮警備隊の中隊長である。
「いつ見ても動きにくそうな鎧ね」
「なんのなんの。万一の際には脱ぎ捨てて戦いますゆえ」
アリーナの言葉に、中隊長は笑って答えた。
アリーナもつられて笑顔になりながら、桟橋に降り立つ。港ではすでに地上の人となった臣下が整列してアリーナを迎えた。軽く手を挙げると、彼らは一斉に敬礼した。
彼らの前を通り過ぎ、列の最前に至りアリーナは振り返り、白銀の大鷲号から父王が鷹揚な足取りで降りてくるのを見守った。彼もアリーナと同じように黒い絹の礼服に身を包んでいる。壮年の、気迫みなぎる佇まいは、世界の北西を掌中におさめるサントハイムの王としての威厳に満ちたものだった。ブライをはじめとした文官と武官たちが最敬礼で見守る中、王はゆっくりと歩いて来た。アリーナも王太子として、父である王を迎えるため膝を折った。
「よい、アリーナ。墓参の前に膝が汚れるゆえな」
王が娘にそう声をかけたので、アリーナは敬礼を解いた。
先導の兵のあとに、王とアリーナ、そしてブライが続いた。大理石の祠の前で、墓守の任を務めている者たちが王を迎えた。王は僻地での労をねぎらう。墓守たちは王の厚情にうっすらと涙を浮かべながら恐縮した。
墓の主の末裔たちを迎えるため、祠の扉は開け放たれ、祭祀の準備はすっかり済んでいた。ここから先は、サントハイムの王族と王宮教会の司祭しか立ち入ることを許されていない。臣下たちに恭しく見送られ、王とアリーナ、そして聖職者たちは王家の墓に足を踏み入れた。
大理石を積み上げて作られた墓は、天窓から差し込む明かりと墓守が灯した蝋燭の炎のおかげで、不便を感じない程度には照度が保たれていた。
居並ぶ天使の像の間に王とアリーナは座した。そして彼ら自身が像になったかのように黙然と動かなかった。
やがて聖職者たちが祭壇の前に立ち、香を炊く。死者を慰める香りがアリーナの鼻腔をくすぐった。大司教が祈りの言葉を捧げ始める。司祭らがそれに続き、祭祀が始まった。
司祭らの祈りは長く、薄暗い建物の中で果てがないように思われたが、やがて王国の祖霊と竜の神を讃え、サントハイムの安寧を願って、終わった。
祭壇の奥の鉄格子が、わずかな金属の軋む音と共に開かれ、父とアリーナは立ち上がった。魔法の炎が灯る燭台を手に奥に入ると、そこは死者たちの眠る場所である。墓石が、まるで王家の者たちの魂の止まり木のように無数に並んでいる。
墓石の間を通り抜けながら、彼らは階段を降りる。王、王妃、王配、王太子と呼ばれた、王家でもとりわけ身分の高い者たちの墓は更に奥深いところにあるのだ。やがて父王とアリーナは、彼らの妻であり母であるひとの墓前に立った。
美しい白御影石に母の名前と、彼女の紋章、そして母の両親の名が彫り込んである。父は携えた芍薬ピオニーの花束を墓前に捧げた。
親子は目を閉じ、祈った。かつて27歳でこの世を去った女性のために。
アリーナは母の墓の文字を何気なく眺めた。母の両親は二人とも貴族であった。
ふとしたことが気になり、アリーナは母の墓に隣り合わせた祖母の墓石を見た。祖母の両親もまた貴族であった。名前から容易にそれが知れた。その隣の墓石、そのまた隣、そのまた隣。すべて彼らの両親は貴族だった。
サントハイムの嗣子を王家にもたらす王妃・王配たるもの、彼らは全て貴族出身であった。直系の王族はすべからく貴族とめあわせるべし。それが王家の威厳を守るための鉄則であることを、アリーナは知ってはいたが、物言わぬ祖先の墓がその事実を改めて彼女の眼前に突きつけたのだった。
「行くぞ、アリーナ」
父が娘を呼ぶ。
「もう少しお母さまのおそばにいたいわ」
アリーナが答えると、
「では今しばらく、ここにいようか」
王は頷いた。
沈黙が下りる。
それを破るように、おもむろにアリーナは問うた。
「お母さまはどんなかただったのかしら」
「素晴らしいかただった」
王は答える。
「心根が優しく、強いかたであったよ」
「お父さまはなぜお母さまと結婚しようと思ったの?」
「そなたの母上のように、賢く、強く、優しいかたであれば、サントハイムの王妃としてみなに慕われるであろうと思ったからだ」
アリーナは記憶の奥底に眠る母の面影をたどる。しかしそれはあまりにも遠過ぎ、彼女の脳裏には一筋の記憶も無かった。
「今のわたしを見て、お母さまはどう思うかしら」
「そなたの母上は、そなたがまだ母上の胎内にいた頃、よく儂に云っていたよ。王子であろうと姫であろうと、自分の信じた道を迷わず進める人間になって欲しいと。自らの強さを信じて鍛錬し、仲間とともに戦ったそなたの姿を見たら本当に喜んだことと思う」
「自分の信じた道……」
アリーナは鸚鵡返しに呟く。父は頷いた。
「迷い立ち止まっても、自らを信じ進むしかないのだ。進んだ先に有るのが何なのかは誰にも解らぬ。ただ、何もせず手をこまねいているだけより、何倍も得るものがあると、母上はよく云っていた。儂もその言葉に何度励まされたか解らぬ。王は孤独だ。日々、幾つもの決断を迫られる。その決断で人が傷つくこともある。だが、己を信じ、進むしかないのだ」
父の鳶色の瞳と、同じ色のアリーナの瞳が、目線を交えた。静謐を保つ墓所の中で親子は見つめ合い、そして父が口を開いた。
「帰ろう」
「……ええ」
アリーナは頷き、先にきびすを返した父の後に続く。
先程父が云い聞かせた言葉に、アリーナは聞き覚えがあった。何ヶ月か前にも、父は似たようなことをアリーナに語った。クリフトがゴットサイドでの任務を帯び、旅立つ前日の夜であったか。
足音が石の壁と床に響き渡る。アリーナは振り返った。母の墓が、薄暗い墓所の中に浮かび上がって見えた。てのひらの温もりの記憶さえない母。だが母の存在を、アリーナは確かに感じることができた。父の中に母はいる。母が父に託した思い、語った哲学は彼の中に息づき、そして娘である自らにも植え付けられていた。
父の、小柄な自分とは違う、すらりとした後ろ姿を見つめながらアリーナは、父が今まで下した数多の決断を思う。時に悩み、時に苦しみながら、父は王として考え、王として選び、王として決めてきたのだろう。自分もいつかそうする日が来るのだ。自ら考え、迷いながらも、決断を下す日々が。
そのとき、クリフトにそばにいてほしい。アリーナはそう思った。彼がそばにいてくれれば、どれほど心強いだろう。
ここに眠る数多の王妃、王配、彼らは全て貴族の血脈を携えて生まれた人々であった。クリフトにはそれがない。彼自身がそうなろうとしているように、彼の父は優れた聖職者である。彼の祖父も。曽祖父も、高祖父も。グルンデン家の直系の男子は、何代も前から聖職者であった。だが、その父方にも、アリーナの乳母を務めた母方にも、貴族の人は居なかった。
だが、そのことになんの瑕疵があろうか。彼の美しい、素晴らしい魂は、彼の血統が生んだものではなく、彼の日々の学びと、努力が形作ったもので、その尊さは誰にも冒すことが出来ないのだ。そうアリーナは思う。やっと、心の底から彼女はそう思うことが出来た。母の哲学と父の教えのゆえ。
やがて王家の墓の祭壇に王と姫が戻ると、聖職者らが恭しく出迎えた。
祭祀は終わった。

王宮の中庭に待雪草スノードロップが可憐な白い花を咲かせていることに、クリフトはその日初めて気がついた。せかせかした王宮勤めの彼の心を、その花は優しく和ませてくれた。冬が一歩づつ去り始めていることを、彼はその花によって知った。
そう云えば、彼の着ている濃灰色の神官服は冬の厳しい寒さから彼を注意深く遠ざけてくれていたが、それでも真冬は手放せなかった羊毛の濃い苔色の肩掛けストールが、ここ数日出番を失っている。詰襟の神官服の襟元からは、青白い首筋が冬の終わりの陽光を直接浴びていた。
今日は少し仕事の時間に余裕があった。だから、中庭の片隅の花に気がつくことができたのだ。今日はアリーナの家庭教師の仕事が無い。彼女が祭祀のため、父王と腹心の部下たちと城を離れているからだ。クリフトばかりでなく、城勤めのものたちの表情がいつもより穏やかなのは、そう云った理由からかも知れなかった。
中庭を横切る道で、アリーナの女官のセルマとすれ違った。会釈して通り過ぎようとしたが、逆にセルマから呼び止められる。
「今日出来なかった授業ですけれども」
セルマはてきぱきとした口調で云う。
「殿下のご予定が詰まっていて、来週の同じ時間しか時間が空いておりませんの。振替は出来ませんので」
「かしこまりました」
クリフトは慇懃に答え、微笑んだ。
「それで問題ありません。殿下はお忙しいのですね」
「今週は特に。今日お帰りになりませんから、色々予定が押してしまうのよね」
セルマはため息をついた。この有能な女官も、流石に少し気が緩んでいるようで、口調がくだけた。
「そうなのですか」
気にせず、クリフトが相槌を打つ。
「今日は陛下とカルバハル公爵の別邸コテージにお泊まりになるのです」
「セルマさんはご同道なさらなかったのですか」
「あたくし、船が苦手で」
女官は眉尻を下げながら云った。
「今回は別の者がご一緒していますのよ。じゃ、また来週」
セルマは軽く会釈をし去った。
カルバハル公爵。その名前は忘れようも無かった。大国エンドールの国王の甥。貴公子の中の貴公子のようなその人。つい先々月、サントハイムに国賓としてやってきたばかりだった。黒い巻き毛、彫りの深い秀麗な顔立ち、そして高貴な生まれに裏打ちされた、気品のある物腰。クリフトは直接顔を合わせることは無かったが、ブライ老や同僚たちとの世間話の話題には、かなり長い間のぼっていた。それほど、好もしい印象を城内の人間に与えたようだった。
噂好きな城内城下のひとびとは、カルバハル公爵はアリーナの結婚相手の第一候補なのだろうと評していた。北西の雄・サントハイムの王配として、家柄も人柄も申し分なく、また年齢もアリーナとあまり変わらず、これはもう貴族の男子として一刻も早く婚姻をしなくてはならない年齢であったから、間違いなく数ヶ月後には縁談がまとまるに違いない、姫さまはあんなお転婆の武芸者だけれども、世界を救いたもうた英雄を嫌とは云うまい……などと、みな云いたい放題であった。
クリフトとしてはあまり愉快な話題では無かった。しかし彼がまだ平静を保っていられたのは、他ならぬ当のアリーナからはカルバハル公爵が来る前も、来ている最中も、帰った後も、彼の名前も話題も、ひとことも出なかったからだった。毎週決まった時間にクリフトがアリーナに施す、経済学の授業の時間の余白や、たまに呼び出される騎馬での遠乗りの合間、クリフトがアリーナと過ごす僅かな時間の中で、アリーナは恋する少女の瞳でクリフトを見つめ、愛らしい小鳥のような声でクリフトの名を呼んだ。疑いようもないほどに真っ直ぐな恋情が、アリーナからクリフトには向けられていた。
だからクリフトは、アリーナが隣国の貴公子に何の興味も無いことは知っていた。
ただ、それは一人の娘としてのアリーナの気持ちだと云うことも、聡いクリフトには分かっていた。王太子としてふさわしい人を選べと言われたとき、アリーナは誰を選ぶのか。あまり考えたく無いことだったが、姫がそれを選ばねばならぬ瞬間が刻一刻と近づいていることは、クリフトにも分かっていた。自分と姫の間に結ばれた心の絆は、おそらくその時に断ち切られてしまうのだ、とクリフトはうっすらと思いを馳せ、その破局の痛みに自分が耐え切れるか全く予想もつかず、いつも思考を止めてしまっていた。
今日、カルバハル公爵の別邸で何が起こるのか、クリフトは想像を巡らすのをやめた。悪い考えしか浮かんでこなかったからだ。
自宅の自室のデスクの引き出しに、キメラの翼を仕舞い込んでいたことが不意に思い出された。その魔法の道具を使ってしまおうか、と云う思いが頭に去来した。
(何を莫迦なことを)
クリフトは首を横に振った。
「……どの。クリフトどの」
穏やかな男性の声が己を呼ばわっていることに、しばらくの間、彼は気がつかなかった。我に返り、声の主の方に首を曲げると、同僚の神官が心配そうな顔で立っていた。
「大丈夫ですか? 顔が真っ青です」
「……大丈夫です。少し、立ちくらみが」
クリフトは慌てて誤魔化した。
「ご気分が悪いなら、少しお休みなされては」
「本当に大丈夫です。良くなりました」
「ならば、会議にもお越しになれますか?」
同僚は問う。会議に参集されたのでこの中庭を通っていたと云うことをクリフトは思い出し、赤面した。
「すみません、すっかり忘れていました。でも、すぐ参ります」
「ご一緒に参りましょう」
「はい」
クリフトは頭を掻き掻き、同僚の背後に続く。晩冬の王城を照らす陽光は西に傾き、その勢いを弱め始めていた。

無限に重なる波濤の音は、やがて、あまりに当たり前にその空間を満たし続けたため、アリーナの意識の埒外へ追いやられた。
月の光がぼんやりと四周を照らす夜だった。
エンドール領の南西の果てに、父とアリーナ、臣下の一行は宿を得ていた。サントハイム城と王家の墓は、1日で往復できる距離には無かったためだ。
アリーナも面識のあるカルバハル公爵が所有する別邸。そこが彼らの宿だった。均等に切り出された石灰岩を積み重ねて建造されたこの邸宅は、華美な装飾は見られぬが、均整のとれた美しい姿をしていて、まるで控えめな淑女のようだ。広大な庭園はこの季節でさえも青々とした芝をたたえ、園丁の腕の程がうかがえる。そして、この別邸を何よりも特徴づけているのは、海を望む広いバルコニーであった。視界いっぱいに広がる大空と大海原を眼下に一望することができ、そして今、アリーナもまたそのバルコニーに設られた安楽椅子に腰掛けていた。晩冬の夜半の寒さは、絶えず炊かれる篝火や、床にじんわりと広がる魔法の熱が遠ざけていた。大国の貴族の別邸ともなれば、そのくらいの設備は備えているのだ。アリーナは感心した。
数週間ぶりに再会したカルバハル公爵は相変わらず貴公子然と振る舞い、隣国の貴賓を如才なくもてなした。祭祀の行き帰りであるから、派手な宴は催されず、旅の疲れを癒す気遣いの感じられる夕餉を共にし、皆は寝室に引き取った。
アリーナは中々眠れず(と云うのも、夜更かしは彼女の好むところであったから)、身辺警護の武官を伴ってバルコニーで安眠を誘うハーブのお茶を飲んでいたのだった。
巧みに気配を消し、アリーナのくつろぎを妨げないように控えていた武官の帯びた長剣がかちゃりと音を立て、アリーナはつられてそちらを見た。武官が膝を折り、迎えた人影があった。
「これは殿下、おくつろぎいただいているようで何よりです」
朗々とした声は、カルバハル公爵のものだった。黒い巻毛が潮風に揺れている。黒曜石オブシディアンのような瞳が笑みを湛えてアリーナを見た。
「おかげさまで」
アリーナは答えた。
バルコニーからは空と海だけでなく、満天にまたたく星座と、夜空を爪で引っ掻いたような細い三日月が見えた。
「掛けてもよろしいですか」
公爵はアリーナの隣の、空いている椅子を示した。どうぞ、とアリーナは頷く。公爵は失礼と云いながら腰掛ける。
「この屋敷コテージはお気に召していただけましたか?」
「豪華すぎて気がひけるわ。わたし、普通の宿屋に泊まる方が慣れているから」
アリーナは答えた。
「長旅はお手のものと云うことですね」
公爵が応じる。当たり障りのない問いと、当たり障りのない答えが何往復か、二人の間を行き交った。三日月はその間にも、少しづつ西へ傾いていた。
話題が今日の墓参の話になり、王家の墓の様子を尋ねた公爵に、アリーナは答えた。
地上には祠しか見えないが、地下に降りればたくさんの墓石が整然と並んでいること。王と王妃、王配、王太子のものだけでも相当な数になること。
「それだけサントハイムの歴史が長いと云う証左ですね」
公爵は云った。
「あなたのお国ほどではないけれど」
アリーナは答える。エンドール、ボンモール、ブランカの3カ国は、確かに世界の中でも歴史の古い国だった。
「確かにそうです。私も幼い頃から国の歴史を叩き込まれました。私は王子ではないけれど、従姉のモニカは一人娘でしたから、万が一の時は私も推定相続人になる可能性がありました。ですから子供の頃から厳しく躾けられたものです」
「それは大変だったわね」
アリーナは少し、この貴公子に同情した。王者としての知識や振る舞いを身につけつつ、だがその椅子が巡ってくる機会は限りなく低い。その立場はさぞかし、難しいものであっただろうと察したからだった。
「いいえ」
公爵は首を横に振り、続けた。
「ですから……一国を担わねばならぬあなたのお気持ちもほんの少しだけ分かります、アリーナ殿下」
「ありがとう。わたしはわたしで精一杯やります」
「おひとりでですか?」
公爵は問うた。
世間話のような軽い口調だったが、内容は踏み込んで、重たいものだった。
「ひとりで出来なくてはと思っているわ。たとえ誰かの力を借りるとしても、誰に借りるかはわたしが決めようと思っています」
アリーナの答えは短く、そして決定的だった。
公爵は薄く笑った。彼の返事もまた、短く、決定的だった。
「隣国から応援しています」
「ありがとう、公爵どの」
「……だいぶ冷え込んできました。お部屋にお戻りなさいませ」
「そうします。お茶、美味しかった」
「お言葉、痛み入ります。使用人に伝えておきましょう。さぞや喜ぶことでしょう」
公爵は先に立ち上がり、恭しく手を差し出した。
「ひとりで立てるから大丈夫」
アリーナは公爵の気遣いを柔らかく謝絶すると、安楽椅子から立ちあがった。控えていた武官が居住まいを正す。彼の先導でアリーナは自室へと歩み始めた。カルバハル公爵のことは、振り返らなかった。
これで良かったのだ、と自分に云い聞かせる。父もブライも、他の皆も落胆するであろう。怒るかもしれない。だが、自分にはそれしか選ぶことができなかった。
だから、これでいいのだ。

冬が去ろうとする、足音が聞こえてくるかのような天気だった。空は高く晴れ、陽だまりは温もりに溢れていた。名残雪は去り、枯れた梢の間に膨らんだ蕾の影が見て取れた。サントハイムは今日も好天に恵まれていた。
城主と姫の帰城を知らせるための先触れの騎兵が城門を潜った。城に勤めるものたちは皆、帰還する君主を迎えるための準備に奔走している。準備には関係のないクリフトでさえ、幾つかの予定を調整せざるを得なかった。
主君の姫がまた、自分と同じ場所に戻ってくる。それは純粋に、心の弾むことであった。しかし、昨夜彼女が宿泊した場所を思うと、その気持ちは半分がた消えた。何かがあったとは思わない。ただ、想像するのが怖かった。なぜそこに宿泊することになったのか。どんな思惑が働いていて、それらが彼女と自分をどこへ押し流そうとしているのか。
陛下と殿下がお帰りになられたそうだ、と云うざわめきが津波のように城外から城内へ押し寄せ、クリフトのいる国教会の図書館にも喧騒は届いた。クリフトは居ても立ってもいられず、整頓を進めていた蔵書を読書机に積み上げたまま図書館を出る。薄暗い建物の中から外へ出たため、視界が一気に明るくなり、彼は眉をしかめ目を細めた。アリーナに会いたいわけではなかった。そんな立場では無いことを、クリフトは十分承知していた。ただ、遠目からでも、姫の姿を見たかった。彼女が変わっていないことを信じるよすがにしたかった。
回廊を抜け、前庭へ出る。晩冬の日差しが降り注ぐ前庭では、帰参した者たちが迎え出た城内の留守番役らと入り混じり、三々五々、言葉を交わしていた。その傍らでは、船の積荷を載せた荷馬車が城門をくぐり、城の奥向きへと向かっている。人馬が掛け合う声と物音で、平素であれば静かな前庭は随分と賑やかだった。
クリフトは人混みの中に白髯の老人を見つけた。ブライだった。クリフトが近寄って名を呼ぶと、ブライは眉毛を軽く動かし、片手を上げて挨拶を寄越した。
「おかえりなさいませ」
「うむ」
ブライは頷き、
「船旅は疲れるのお。次はルーラじゃな」
と半ば独り言のように云った。確かに、ブライほどの魔法使いの魔力ならば、船団を組んで数日がかりで行くよりもそちらの方が余程楽であろうと思われた。
「ご苦労さまでした」
クリフトは老師をねぎらう。ブライは頷いた。その表情は出立前と全く変わらなかった。
ブライたちがここでのんびりと荷解きしたり油を売ったりしていると云うことは、すでに国王とアリーナは城の奥向きへ引き取っているのだろう。クリフトは少し残念に思う。王族の私的空間へは、呼ばれない限り立ち入ることは出来ない。
(図書室へ戻ろう。来週になれば、また家庭教師の時間にお目通りがかなう)
クリフトはそう自分に云い聞かせ、落ち着きを取り戻そうとした。
その時だった。
「クリフトーーーーーーー!!!!!」
聞き慣れた愛らしい声が、性急な調子でクリフトを呼ばわり、クリフトの心の臓が跳ねた。
声の主は他ならぬアリーナだった。アリーナの居場所を首をめぐらせて探す。周囲の人間たちも、群衆の中で一段と背の高いクリフトを見つけ彼を見るのと同時に、アリーナを探している。
「テラスにおわすぞい」
ブライが云う。顔を上げると、前庭に面したテラスの手すりに手をかけ身を乗り出し、陽光を背にしたアリーナがいた。彼女の赤銅色の巻き毛が、陽の光を透かしきらきらと輝いている。クリフトは既視感を覚えた。こうやって、テラスから名前を呼びかけられたことが何度も何度もあったことを、彼は思い出した。
アリーナの装いはいつものように、艶やかな絹で仕立てられたドレスだった。今日のドレスは春先の紅黄草マリーゴールドのような橙色で、彼女によく似合っていた。
「これは殿下、おかえりなさいませ」
クリフトは慌てて一礼した。
「聞いて欲しいことがあるのー!!」
アリーナは大きな声で云う。
「何でございましょう!?」
つられて、クリフトの声も大きくなった。
「わたし、これからサントハイムのためにがんばろうと思ってるの」
「はい」
「だけど、わたしひとりでは無理なの。みんなの助けが必要なの」
「はい」
クリフトは頷く。
「みんなに助けて欲しいんだけど、あなたにも助けて欲しいのー!」
「もちろんでございます! 微力ながらクリフトめも、サントハイムのために粉骨砕身」
「それでねー!」
クリフトの早口の応答を姫は遮り、いっそうの声をあげた。
「わたし、あなたがどんなに賢くて、強くて、立派なひとで、どんなに毎日頑張っているか、みんなに説明するから! 分かってくれない人がいたら、ひとりひとりが分かってくれるまで、説明するから! だから、大変な思いをさせると思うけど、クリフト!!」
アリーナは少し、自分の言葉にたじろいだように口を閉じ、そして、云った。

「わたしと結婚して欲しいの!! お願い!! あなたしかいないの!!」

二人のやりとりを微笑ましく見守っていた人々が、一気に静まり返る。
ブライは頭を抱えた。どこかでこうなるのではないかと、ほとんど意識の外で、しかしながらかすかに薄々と、その可能性を思っていたことは間違いない。だが、老人の勘は鈍く、それが実現するとまでは思い至っていなかった。まさかこんな場所でこんな形で、それが眼前に突き付けられるとは。
老人は傍の青年を見た。
クリフトの白皙の横顔は固まっていた。瞳がまんまると見開かれ、眼窩からこぼれそうだ。口は日頃の彼らしくなく、唖然のあ、と云う形に開けられていた。きっと何の前触れもなく、自分と同じくらい唐突に、この状況に叩き落とされたのだろう。ブライはほんの少し、本当に小指の先くらいのかすかな同情を覚えた。
長い長い沈黙だった。みな、クリフトとアリーナを見ていた。アリーナはクリフトを見、クリフトはアリーナを見ていた。
アリーナがどれだけの決意を持ってクリフトにそう告げたのか、彼には痛いほどわかった。
あなたといると、楽しい。
あなたといると、幸せ。
アリーナはいつも、そう云った。その言葉には常に、「今」と云う但し書きがついていた。それが二人の間の暗黙の了解であったように思う。アリーナとクリフトの間には、常に刹那しかなかった。未来を考えることは、ほとんど禁忌に近いことだった。それは破局をしか、意味していなかったから。今、この瞬間までは。
しかしアリーナは今、これからも、と云った。未来を共に、と。
彼女は決めたのだ。自らの力で変えることを。誰も成したことないことを、成し遂げようと。それがどんなに困難であったとしても。
そして、クリフトに乞うたのだ。
共に来てくれと。
彼は息を吸った。
「アリーナさま! 何と恐れ多いお言葉! わたくしは一介の聖職者に過ぎませぬ。修行中の身でございます。至らぬことばかりでございます」
拒絶されるのだろうか、そんな予感からか、アリーナの眉間は曇った。
だが、クリフトは言葉を続けた。
「そんなわたくしでも良いと、アリーナさまが仰るのなら、わたくしは覚悟を決めました! あなたさまとどこまでも参ります!」
「クリフト!」
アリーナの大きな瞳に水晶のような涙が盛り上がり、あっと云う間に溢れた。
「ありがとう!」
アリーナがひらりと、快活な猫のようにテラスのルーフを飛び越え、テラスから飛び降りる。彼女はそのまま地面に降り立ち、クリフトの腕の中に飛び込んだ。突然の抱擁に慌てふためきながら、クリフトはしっかりと、アリーナを抱きしめて支えた。
わあっ、と歓声があがる。周りの人々が手を叩き、口笛を吹き、帽子を振り回し……口々に祝福の言葉をわめきながら、アリーナとクリフトに近寄った。
ブライは潰されそうになりながら周りの人間を叱る。
「こら、おぬしら! 危なかろう! 離れぬか!」
「ブライさま、堅いこと言いっこなしですよ」
「殿下にお怪我があったらどうするんじゃ!」
「そのくらいはみな、心得ていますとも」
雨あられのように祝福の言葉を浴びながら、クリフトはいつの間にかアリーナから引き離され、人々から胴上げされた。ブライさまもついでに、と、何がついでなのかは分からないが、ブライまでもが気がつけば人々に担ぎ上げられ、宙を舞った。
「危ない、莫迦者、やめんか!」
ブライはそう云うが、周りのものは聞き入れない。傍らで人々になされるがままになっているクリフトを見やると、彼は笑ってこそいたが、目の端から涙を流していた。
やがていつ果てるとも知れぬ胴上げが終わり、長身の神官と小柄な魔法使いが地上に下ろされる。アリーナが二人に近づき、笑った。あの初夏の日、旅立った時は、二人から逃げ出そうとしていたのだが。ブライは懐かしく、夜半の脱走劇を思い出した。
そのとき、三人を取り巻いてやいのやいのと騒いでいた人々が静まり返った。群衆は次々に膝を折る。彼らに跪拝の礼を取らせることができる人物と云えば、アリーナを除けば、王そのひとしかいなかった。人垣が、波が崩れるように低くなっていく。その中を、父王が歩んで来る。ブライもクリフトも跪いた。アリーナも膝を折ろうとしたが、父が手で制した。
「今日は祭りとは聞いておらぬが」
父は云った。
「わたしが原因なの。騒がしくてごめんなさい」
「お転婆どの、今日はどうしたのだ?」
「ええと…」
アリーナは少し視線を泳がせたが、意を決したように口を開いた。
「わたしが決めたことを、みんながお祝いしてくれたの。わたし、クリフトと結婚します。クリフトと一緒なら、わたしはもっと頑張れると思うから」
皆が息を潜め、王の言葉を待った。クリフトは生きた心地がしなかった。
王の落ち着いた声が、彼の頭上にも降ってきた。
「娘よ。我が家系は父祖の代より多産の家では無かった。男も女も早死にが多く、係累は少なかった。ひ弱な血を継ぎ足し継ぎ足し、長らえてきた。そしてメルレンブルク家の男系の男子は、もはやわたしが最後のひとりだ」
父は云い、息を吐き、辺りを見回す。
「だが家は絶えても国は在らねばならぬ。儂は、そなたが生まれた時からそう考えて、ありとあらゆる王侯貴族の男子を調べ尽くした。そらで云えるくらいだ。できれば王となるに相応しい男子をと望んだ。だが、いくら調べても、実際に会っても、そなたより強い男子はおらぬし、賢い男子もおらなんだ。それでも諦めきれず、何人もの男子をそなたに会わせた。しかし、そなたの眼鏡にかなうものはいなかった」
王は少し、言葉を切った。
そしてまた、続けた。
「そなたこそが玉座に相応しかったよ、アリーナ。それに気づいた時、儂は思ったのだ。そなたは時代が連れてきた、サントハイムの新しい歴史を作る子なのだと。新しい時代の女王にふさわしい王配とは誰なのか、考えた。そして遅まきながら分かった。そなたが選んだ者こそが答えだと」
王は唇の端に笑みを浮かべた。
「おめでとう、アリーナ」
「お父さま……」
「世界中を旅したそなたが見つけたのが、いつも一緒にいたクリフトだと云うのなら、それがそなたたちのさだめなのだ」
クリフトは跪き首を垂れながら、夢の中にいるのではないかと訝りつつ王の言葉を聞いていた。クリフトが幼い頃から王は王であり、権威そのものであり、侵しがたい王権の依代であった。自らと王の間には、何重もの壁があると思っていた。だが、その王が紡ぐ言葉には、何の障壁も無かった。
「クリフト、立つがよい」
王に促され、クリフトは立ち上がる。跪き首を垂れる人々の中、王と、アリーナと、クリフトだけが立っていた。幼い頃から常に玉座に居り、見上げるような存在だった王は、しかし改めて今並ぶと、クリフトの方が背が高かった。
「アリーナを支えてやってくれ」
「はい。わたくしめの人生を賭けて」
クリフトは頷く。そっとアリーナが寄り添った。自分の肩ほどしかない小柄な双肩にずっとのしかかっていた因習、しがらみ、周囲の思い。それらを全て乗り越え、自分を求めてくれた姫のことを、クリフトは心の底から崇敬した。
「皆のもの、顔を上げよ!」
王が云う。
人々が頭を上げた。彼らの顔を、冬の終わりの陽光が照らした。
「今しがた、皆が一部始終を見た通りだ。皆が証人じゃ! 我が嗣子アリーナは、我が国の忠実なグルンデン家の長子、国教会のクリフトと結婚する!」
歓声が再びあがり、人々は立ち上がって手を叩き、何か音の出るものを持つものはそれを打ち鳴らした。
その騒ぎは果てることなく、その日の城の機能は全て止まった。

吹き付ける風は、真冬の冷たさを無くしていた。そして眼下に広がる海の色は、まろやかな春の色を帯びだしていた。
冬は去った。否、おそらくは、思い出したように戻ってきて雪を降らせたりすることもあろう。行きつ、戻りつし、季節は移り変わっていく。
艶やかな月毛と、濡れたような青鹿毛、美しい二頭の馬が、主人らを乗せて岬の突端に至った。アリーナとクリフトだった。二人とも乗馬用の長靴ブーツ
を履き、防風の外套マントを巻き付け、革製の手袋グローブを身につけている。
「久しぶりに来た」
心地よさげな様子で海風に身を晒しながらアリーナは云う。確かに、クリフトとの遠乗りでここに来るのは本当に久しぶりのことだった。まだ旅が終わってすぐ、青年が王宮教会の助祭を務めていた頃だ。
「わたくしもです」
クリフトが相槌を打つ。
「その時のことを覚えている?」
「はい」
アリーナは、クリフトに意味深な投げかけをしたのだった。私が姫ではなく、普通の町娘だったら、また共に世界をめぐる旅に出てくれるのか? と云う問いだった。クリフトは自分の心を必死に閉ざし、その答えを拒否した。まざまざと思い出す、その、剣の切先をすり合わせるかのようなぎりぎりのやり取り。お互いに必死でお互いの心を追い、自らの心を守ろうとし、でも何も見えていなかった、あの頃。
「わたしが、また旅に出るって云ったら、どうする?」
「ご一緒します……と云いたいところですが、お止めすると思います、流石に」
クリフトは苦笑しながら答えた。
「それに、わたくしはもう旅に出ています。あなたさまと、人生の船旅に」
クリフトの言葉に、アリーナは少し頬を染める。そして笑う。
「そうだね、クリフト」
「はい」
「クリフト、一緒に行きましょう。これからも、ずっと」
「はい」
青年は頷く。

「どこまでも──おともいたします。アリーナさま」

首肯に合わせて、赤銅色の巻き毛が揺れる。
かの人は、これからも変わらぬであろう笑顔を、クリフトに向けた。

 

 

 

 


と云うわけで最後のドラクエ4の小説です。
10年前に書いたお話の塊のラストを書くことができました。
構想自体はずっと頭の片隅にありましたが、中々機会が無く本腰を入れて向き合うことができていませんでした。しかし何日か前に最初の文章が頭に浮かんできて、そこから一気に完成させることができました。長らく気になっていたので、完結させられてよかったなあという気持ちです。
アリーナに快活さが無いかも、とか、オリキャラ出過ぎかも、とか色々悩みながら書きましたが、まあ多分誰も読まないだろうと云うことで好き勝手絶頂にやらかしてしまいました。

ハッピーハッピーハッピー★エンドにできてよかったです。ボーイ・ミーツ・ガール、シンデレラ・ストーリー、クリアリには素敵な恋愛物語の要素がこれでもかと詰まってますね!!!
ここまで読んで下さった方がいらしたらほんとうにありがとうございます。
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(2022.9.17 本サイトにアップ。9/17はクリアリの日だそうで…間に合ってよかった!)